女性医師・子持ち医師のキャリアプランを考える

医師のキャリアプランについて、別記事で提案してみました。しかし、そのプランはいわゆる医師業務だけに注目したものであり、結婚や妊娠・出産、子育てといったライフプランについては一切考慮していません。独身、または配偶者の十分な理解が得られている場合に限ったプランと言うべきかもしれません。

そこで、本記事では妊娠や出産、子育てという人生の大きな転機に対して、医師のキャリアをどう考えあわせて形成していくかについて考えたいと思います。医師のキャリアプランとライフプラン・ライフイベント、いわゆるワーク・ライフ・バランスについて、ひとつの指針にしてもらえるよう考察してみます。

妊娠・出産の年齢

一般的に、「出産予定日に35歳以上であること」が高齢出産と定義されています。高齢出産は、ダウン症、多胎、早期流産、子宮外妊娠、前置胎盤、胎盤早期剥離、低出生体重児、早産などの妊娠合併症のリスクが高くなるとされます。

また、高齢出産以上に重要なリスクと考えられるのは、「初産年齢が35歳以上」というものです。2021年時点で、カナダやスウェーデン、オランダでの初産平均年齢が、それぞれ30歳、29.8歳、30.3歳であったとされており、先進国では初産年齢も上昇傾向であることが示されています。

ちなみに高齢出産の要因として、晩婚化・再婚、避妊をおこなわないこと(意図しない妊娠)、生殖補助医療の普及、女性の高学歴・キャリア形成などが挙げられています。女性医師も、高学歴・キャリア形成が高齢出産の要因となりえるでしょう。

さて、医学部を現役で入学しストレートで医師免許を取得したとしましょう。日本では、医学部卒業時点で24歳が最年少。この年齢は、妊娠合併症のリスクが最も低い年齢層です。生物学的・医学的には、30代前半までに初産を経験しておくことが理想的と考えられるでしょう。

産休・育休からの復帰時期をどう見込むか

続いて、妊娠・出産に関する休業についてみておきましょう。

労働基準法により、単胎妊娠の場合、産前休業期間として出産予定日からさかのぼって6週間、産後休業期間として出産翌日から8週間が定められています。

また育児・介護休業法により、育児休業期間として、子が1歳になるまでが定められています。育児休業は男性にも適応され、夫婦で育児休業を取得することも可能です。また夫婦で育児休業を取得した場合、条件を満たせば、子が1歳2か月になるまでの期間に延長される特例制度を利用することができます(パパ・ママ育休プラス)。ただし、このパパ・ママ育休プラスは「休業期間が延長される」のではなく、「休業が適応される子の年齢が延長される」点に注意が必要です。育児休業期間は、あくまで1年間です(詳しくは厚生労働省のパパ・ママ育休プラスを参照)。

簡単に言うと、女性は出産予定日の6週間前から出産後1年までの「6週間+1年間」が休業期間として保証されているわけです。

この「6週間+1年間」をどう考えるか。職場復帰をいつに計画するか。いくつか選択肢を挙げてみます。

  1. 産後休業が終わる、産後8週(条件をクリアできれば産後6週)
  2. 子が4ヶ月~6ヶ月頃(年度初めなど、子が保育園に入園でき次第)
  3. 標準的な育児休業が終わる、子が1歳になる頃
  4. 子が幼稚園に入園する頃(子が4歳になる年度)

どの時期に復帰するか、イメージできるでしょうか。

復帰するタイミングについては、大きく分けて以下の3点を考慮して決めるべきです。

  1. キャリア
  2. 家庭環境
  3. 職場環境

研究の道を進んでみたいか

まず①のキャリアについて。これを1番に挙げたのは、独身の時からじっくり考えることが出来るからです。

研究の道へ進んでみたいというモチベーションがある場合、大学院へ進学するというキャリアを選択することになります。臨床であれば、代理・代診、主治医交代、他病院紹介という方法がとれます。しかし、自身が主体として行う研究、特に学位論文としてまとめる予定の研究を、別の人間に代わってもらうことは原則として出来ません。

研究は、スピード勝負の面があります。1年間休業しているうちに、類似研究が発表されてしまうことも考えられます。同じ研究内容であれば、最も早く報告した人がより評価される世界なのです。

つまり、大学院生時代に妊娠・出産で休業するのは、キャリア継続の観点でリスクが高いということになります。

いっぽうで、大学院生時代は臨床業務の負担が軽減される場合が多いため、臨床へ復帰する場合に比べ、時間の融通が利きやすいというメリットもあります。実験スケジュールの都合をつけることが出来れば、妊娠後期から休学し、出産後に復学して研究と育児を両立するという生活を送ることが可能かもしれません。

とにかく情報を集めて家族計画を立てる

次に、②の家庭環境を考えます。主にパートナー、夫婦の親の協力を得られるかどうかです。

まず、パートナーが妊娠・出産、子育てについてどのような考えを持っているか、話し合うことが大切です。

  • 育児休業を取得できるか。
  • 急な発熱などの場合、保育園や幼稚園への迎えや早退ができるか。
  • 家事を担当するつもりがあるか。

「家事・育児は女性がするべき」という考えがあれば、それは男性であっても女性であっても、ジェンダーバイアスにとらわれていると言えます。夫婦それぞれがキャリアや職場の人間関係を大切にし、協力して家庭を築いていくのが理想的な家族の在り方です。パートナーにも、職場の育児関連の規程について確認してもらいましょう。情報収集することが第一です。

続いて、親の協力が得られるかどうか、夫婦それぞれ確認してみましょう。いざというときだけでも助けてもらえれば、非常にありがたいもの。物理的に近い距離に住んでいれば、一時的に預かってもらったり食事の準備をしてもらったりできるかもしれません。

ただし、孫を預かるということは、親が思っている以上に負担に感じる可能性があります。「孫疲れ」と言われる問題。体力的にも精神的にも経済的にも、負担をかけることがありますので、こちらも十分に話し合い、できる範囲で支援してもらうようにしましょう。

こうした情報を確認した上で、パートナーと家族計画を立てましょう。くれぐれも、特に計画もなく、「まず一人目を妊娠して、子育てに慣れたら復帰して、そのうち2人目も考えて…」と妊活を始めることはやめましょう。

  • 何人の子どもを、どれくらいの年齢差で育てるのか。
  • 現在と近い将来の経済状況を把握できているか。
  • どこに住み続ける予定か、その自治体の子育てサポートはどんなものか。
  • 保育園の待機状況はどうか、通う候補となる幼稚園・学校の雰囲気はどうか。

などを事前に十分検討しておくべきです。パートナーとしっかり話し合い、計画的に子育てを行いましょう。家庭や職場の状況は変化し続けるものです。計画は定期的に見直し、修正するようにしましょう。

育児とキャリア形成のロールモデルを探す

最後に、③の職場環境についてです。パートナーや親などとの協力体制を確認したあとは、職場環境を整えます。

「研究をしようかどうか悩んでいる」「医師業務をしながら育児も可能かが不安だ」という声もあるでしょう。そんなとき、身近に先輩医師がいれば、参考に話を聞くことができたり相談できたりします。同じ医局の先輩であれば快く自身の経験を語ってくれるでしょうから、医局に属している場合は積極的にコンタクトをとってみましょう。その中に、ロールモデルとなるような人物が見つかれば最高。

仮にロールモデルがいなくても、あきらめてはいけません。「自分が後輩のロールモデルになる」という意気込みを持って、医局や上司に掛け合ってみましょう。妊娠した場合の業務軽減や、復帰後の勤務体制や業務内容について、希望を伝えてみてください。人数が不足している医局では難しいかもしれませんが、人員を調整してくれるかもしれません。

第一子の妊娠出産時期を、どのキャリア時期に重ねるか

さて、いよいよ本題になりました。医師として、どの時期に妊娠出産を考えるかです。まず、第一子をどうするか、という点で考えてみます。

Ⅰ. 大学院へは進学しないと決めている場合

この場合は、臨床面のみを考慮することになるので、比較的考え方はシンプルでよくなります。

おすすめは、専攻医のうち専門医資格を取得できる最短の年です。理由は、①仮にしばらく復帰できず臨床の知識に後れを取ってしまっても、専門医資格を取得していれば復帰する職場探しには困りにくいから、②専門医取得までの約5年間で専門医取得に必要な症例の準備さえしておけば、専門医試験の申請や過去問対策は産休・育休中にも自宅で可能だからです。

この時期よりも早いタイミングでの妊娠出産は、母体や子の健康面ではメリットが大きいものの、女性医師にとってキャリア面でのリスクが大きくなるでしょう。初期研修や後期研修が修了していない状態で休業し、復帰してから研修を再開することになるため、知識的にも業務負担的にもかなり頑張る必要があります。

おすすめの2番手を挙げるとすれば、専門医資格を取得しスタッフとなったばかりの時期です。この頃には臨床的には一人前と呼べる状態になっており、知識面や経験面での問題はほとんど気にしなくてよい場合が多いためです。年齢的には、専攻医のときよりも少し上がっていますが、30歳代前半であれば問題ないでしょう。

これ以降の場合は、可能な限り早いタイミングで、ということになります。

Ⅱ. 大学院に進学する可能性がある場合

この場合は、大学院に進学する時期も考慮する必要があるため、より複雑になります。大学院に進学する時期で分けて考えてみます。

  1. 医師免許取得後から専門医取得までに大学院に進学する場合
  2. 専門医取得後に大学院に進学する場合 

   ⅱ-(ア) 専門医→大学院進学→妊娠出産

   ⅱ-(イ) 専門医→妊娠出産→大学院進学

このうち、おすすめは(イ)>(ア)>ⅰ. の順です。

(イ)の方が(ア)よりもお勧めする理由は、①より若年で妊娠出産できること、Ⅰ.で述べたように、②産休・育休中に専門医の準備ができる、さらに③産休・育休中に大学院入試の準備もすることが出来る点です。

ⅰ.をおすすめしない理由は、これもⅠ.で述べた通り、ⅰ.の早い記事で休業すると臨床医としてのキャリアが大変になるためです。ただし、「臨床医には興味がなく、研究メインでやっていくつもり」、という強い意志がある場合は、ⅰ.の時期がベストになると思います。

第二子以降は慌てずゆっくり計画し直せばよい

第二子のタイミングについては、第一子の子育ておよびキャリア復帰の負担を実感してから、じっくり考えなおせば良いでしょう。

「一人で良いと思っていたけど、子供がかわいく感じたからもう一人考えたい」

「思っていたよりも子育てと仕事の両立が難しい」

「職場の理解や協力が得にくく、働きづらさを感じてしまう」

当初立てた家族計画通りにいかないことの方が多いはず。そんな時は、改めてパートナーや家族と話し合って、計画を立て直せばよいのです。子供が出来てから夫婦関係が悪化するというパターンもあります。そうならないように、特にパートナーを思いやって、家庭も仕事もうまくやっていきましょう。

第一子のタイミングは、

  • 大学院へ進学するつもりがなければ、専攻医のうち専門医資格を取得できる最短の年がおすすめ
  • 大学院へ進学するつもりがあれば、やはり専門医資格を取得できる最短のタイミングがおすすめ(ただし、臨床医ではなく研究医をメインに考えるのであれば、専門医資格を取得する前でよい)  

母体や新生児の健康リスクを考えると、高齢出産を避けるのが良いことは間違いありません。自身のキャリアや働き方、家族との時間の過ごし方など、ワーク・ライフ・バランスについてパートナーと一緒に考えることが大切です。

参考図書:育児とキャリアの共存戦略 内藤眞弓

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