医師15年目までのキャリアごと重要事項まとめ

医師になりたての頃は、働くこと、労働についてなど考える暇もなく、ひたすら日々の業務をこなすだけになりがちです。キャリアを見通すこと、プライベートと両立することなどは、なかなか考えに至らないものです。

そこで、若手の医師にとっての指針をここで示してみましょう。医師として1人前と言える、専門医を取得してスタッフとなる10-15年目までのキャリアで、特に重要だと筆者が考えることをまとめてみます。40歳をひとつの目安に、医師としてのキャリアを区切って考えてみてはいかがでしょうか。

初期研修で大切なこと|時間を武器に、たくさんのことを経験せよ

時間があるのはこの時期だけ。経験することを最優先せよ

医師になって最も時間があるのは、間違いなく初期研修医の間です。キャリアが進むにつれて業務量は増え、責任も重くなってくる。これは医療業界でも例外ではありません。時間があるというのは、人生において最重要事項です。そんな時期には、医師として経験可能なものごとをなるべく経験することが大切です。一度見たことがある、一度やったことがある、というのは非常に価値を持つものです。たとえそれがその時には分からなかったとしても、です。

例えば気胸に対する胸腔ドレナージ。心嚢液貯留に対する心嚢穿刺。食物アレルギー疑いに対する経口食物負荷試験。こういった手技や検査は、特定の科でしか経験する機会がないのです。上級医に呼ばれたらついていくのはもちろん、外来や病棟で行われている処置には積極的に立ち合いましょう。迷惑をかけない範囲で外来診察を見学するもの、良い見取り稽古になるはず。

夜勤の看護師や当直の薬剤師・放射線技師がどのような業務をしているのか、自分の目で確認してみるのも大切です。自身のオーダーがどのように他の医療従事者に伝達されていくのか、理解できるでしょう。

広く浅くでよいので、ためらわずに色々な経験をしに行きましょう。

カルテ記載のいろはをマスターせよ

医学部生で十分な指導を受けないことの代表例が、カルテの書き方です。

Weedが提唱したカルテ記載法であるPOMR(problem-oriented medical record), すなわち問題志向型診療録をベースとして、書き方の基本を身につけましょう。その上で、総合プロブレム方式についても勉強してみましょう。総合プロブレム方式は、患者の持つ疾患を時系列にリスト化したものをプロブレムリストと呼び、単なる検査異常や心理社会面は記載しないことが原則となっています。どちらにもメリットとデメリットがあるため、両者をうまく融合させたカルテが理想的ですが、学会などで統一された見解や推奨はありません。

重要なことは、プロブレムリストを作成して疾患の漏れがないように記述すること、自身以外の医療従事者が読んでも理解できるよう明確に記載することです。カルテ開示請求され得ることも踏まえ、患者や患者家族にも誤解がなく伝わるように、読み手を意識して書く習慣をつけましょう。

鑑別診断トレーニングと救急外来対応を積め

医師は、疾患を診断しその治療方針を決定するために、鑑別診断を考えます。鑑別診断を行うためには、過不足なく情報を集めることが必要です。つまり、問診、身体診察を十分に行い、症状から考えられる疾患を絞り込んでいきます。

この過程を臨床推論と呼び、臨床推論について学ぶ学問を診断学と呼びます。初期研修のうちは、この臨床推論、言い換えると鑑別診断を挙げる作業を十二分にトレーニングすることがとても大切です。疾患を診断するには、疾患そのものを知っていなければなりません。どの疾患ならどういった症状を呈するのかを知り、逆にある症状からはどのような疾患が候補に考えられるのかを考えられるように訓練するのです。

トレーニング方法としては、一つ目に、診断学についての医学書を読みこんで臨床推論の方法を理解することです。診断学書は読み物としても面白いものが多く、筆者は好んで診断学書を購入して読んでいました。そして二つ目に、実際に患者を診療して鑑別診断を行うことです。鑑別診断を行う絶好の機会は救急外来と当直です。初期研修では救急外来対応を、つまり問診と身体診察から鑑別診断を挙げ必要な検査を計画するという一連の行為を身につけましょう。

自身のコミュニケーションが社会に成立するか確認せよ

医師の中には、小中高大の間ずっと勉強にのみ打ち込んで、部活動やアルバイトなどの社会的活動には十分参加できずに働き出す人がいます。大学入学までであれば、少し変わったヤツだというだけで受け入れられたかもしれません。しかし一般社会にでると、そういった人間は職場で会話やコミュニケーションに問題が生じます。

いわゆるネクラ、コミュ障。コミュ障と言われるような医師は、はっきり言って害でしかありません。

相手の顔を見ながら会話できるか、必要十分な声の大きさで話ができるか、アイコンタクトをとれるか、突然キレ出したりしないか。コミュニケーションが問題なくできるか、自身の行動を確認しておくべきです。問題があれば、直すべく訓練すべし。コミュニケーションに難がある人物の噂はすぐに回り、働きづらくなります。自分がそのような状態になっていないか、敏感にアンテナを張っておきましょう。

とにかく臨床系医学書を読め

医師として知識を習得し続けるのは絶対条件。まだ経験が浅く、その機会も限られている初期研修医のうちは、とにかく臨床系の医学書を読んでください。初期研修医でのローテ―トが、主体的に関わる最終チャンスになってしまう科はたくさんあるはずです。この機会を逃すと次はないと思いましょう。

ローテ―トをしている科の医学書を精読する。薄くても良い。広く浅いものでも良い。各科の代表的疾患についてのガイドラインは必ず読み込む。

医学書を購入するのにお金はかかりますが、それは今後も常にそうなので、そういうものと思うしかありません。医師だからといって特別な控除や経費はありません。民間医局や神陵文庫の書籍割引サービスを利用して、少しでも負担を軽くしましょう。

後期研修・レジデントで大切なこと|過労に耐えスキルを習熟させ続けよ

主治医の重責を感じつつ、患者・症例にとことん向き合え

後期研修医になると、主治医を担当します。担当患者の診療に対して責任を持つことになります。それまでの「担当医」「初期研修医」としての立場からは大きく異なるポジション。これが精神的な重圧となってのしかかります。1年間ほどは、この重圧との闘いが続くでしょう。時間外になっても病院からの電話連絡を受けたり、急変した場合の呼び出しを受けたりすることは、かなりつらいものです。ただし、そうしたプレッシャーの中でしか経験できない大切なこともあるので、逃げずに負けずに頑張りましょう。

主治医として、患者の診察、検査計画、治療計画を正確綿密に遂行し、必要があれば修正を重ねていく、という医療行為を繰り返します。患者とのコミュニケーションを続け、患者との信頼関係を構築しなければなりません。また疾患の典型的経過、あるいはイレギュラーな合併症など、各患者の病状・疾患・経過(症例と呼ぶ)をとことん深堀りします。教科書、文献、薬剤情報などを利用して疑問を解決しつつ知見を深めていく。これが臨床医の業務です。

一つひとつの症例の経験が医師としての知識・経験を育ててくれます。どんな症例でも学ぶべきことは見つかります。ただ、なんとなく患者を診るだけでは教訓や知見は見つかりません。真剣に、詳細に、丁寧に診療していきましょう。

論文検索・精読を日常化せよ

代表的な疾患には、国際・国内ガイドラインが策定されていることが多いため、標準的な治療に困ることはありません。ただし、そのガイドラインおよびガイドラインのもとになった主要論文(大規模臨床試験)の内容は、読み込んで理解しておく必要があります。出会った症例に関する、ガイドライン関係の論文を精読しておきましょう。

普段よく出会う症例についても、日常の診療の中で、診断や治療、合併症などについて疑問が生じるはずです。その都度、PubMedや医中誌などの論文データベースで類似症例の報告がないか、検索する癖をつけましょう。

これらの習慣が、後に大きな力になっていきます。

症例報告をせよ

珍しい症例に出会うことがあれば、ぜひ学会発表をしましょう。疾患自体が希少な場合のほかに、珍しい合併症の組み合わせ、難治性の経過など、報告に値する新規性を見出すことがポイントです。

学会発表では、プレゼンテーションの型式を学べます。主訴、現病歴、身体所見、…といった情報を決まった手順で提示し、診断過程、治療経過、症例の考察を述べます。決められた時間内に必要十分な情報をまとめる、よい訓練になるはずです。

さらに、学会発表を終えた症例を論文投稿できないか考えましょう。医師は論文を執筆してナンボ、という世界です。今の時代、英語力がなくても、ツールを利用すれば症例報告論文は十分記述することができます。上級医に相談して、論文執筆を経験してみましょう。

時間の使い方を意識しておけ

一般的な医師業務・一日の流れは、以下のようになります。

  • 前日の夕以降に新規エピソードがないか確認する。
  • 採血結果が予想外のものになっていないかチェックする。
  • 外来診療・ルーティン検査および緊急入院の対応をおこなう。
  • 受け持ち患者回診を行い、カルテを記載する。
  • 外来予習をする。

こういった必ずしなければならないことを思いつくままこなそうとすると、非常に効率が悪くなります。そこで、この時間帯は必ずこれをする、というタイムスケジュールを作り、その通りに行動して業務を行うようにしてください。

昔は、病院に長くいることが職場への忠誠心だと考えられていたフシがありますが、今はそういう時代ではありません。可能な限り予想できる業務は素早くこなし、緊急時の時間を確保しながら、空いた時間に勉強を行う、というリズムを作っておきましょう。

タイムマネジメントについての本も、数冊読んでおきましょう。

専門医・スタッフで大切なこと|業務効率化・経営改善に興味を持って関われ

若手医師を正しく導け

専門医資格をもった専門医およびスタッフになると、これまでとは逆に研修医やレジデントの研修診療を支援する立場にかわります。業務の振り分けや、他の医療スタッフからのクレーム対応など、仕事の幅が格段に広くなります。

自身の経験だけで指導するのではなく、リーダーシップやコーチングの勉強をした上で、系統立てた指導をするのが指導者としてあるべき姿でしょう。残念ながら、医長・科長・部長などの上級スタッフを対象とした指導書は、市販されていません。「臨床研修指導医」という資格があり、取得するハードルはやや高いものの、受講する価値はあると思いますので、ぜひご検討ください。

病院経営に駆り出される

部長クラスになると、院長・副院長といった病院経営幹部クラスから、定期的に科の診療実績についてヒアリングが行われます。そこでは、外来患者数、入院患者数、病床稼働率、平均入院日数、DPCⅡ群以内退院率などの指標をもとに、運営改善を求められます。これは、胃が痛くなるような雰囲気の大変なものらしいです。病院といえど、サービス業。コストを削り収益を伸ばすために、経営陣も日々努力し続けなければならないのです。

業務効率化、無駄の削減。患者集客、周辺開業医や周辺病院の開拓、関係性づくり。こういった、医療そのものから少し離れた業務についても勉強する必要があります。一般社会で働いた経験がない大多数の医師にとって、非常に大変な負担になるでしょう。

大学院生で大切なこと|結果が問われる競争社会を体感せよ

研究の世界が性に合っていると感じられるか

ここからは一旦臨床医を離れ、研究医について述べてみます。

研究医としてのスタートは、多くの人が大学院に入学することになるでしょう。もちろん、今の時代は学部生の間から研究室に出入りして研究を始めさせてもらうことも多いようですが。

医学部を卒業してすぐに大学院に進学することも可能ですが、多くの場合、臨床医を経験してからの進学になるでしょう。ちなみに、大学院への進学は、いつでも可能です。臨床経験を何年経た後でも、大学院入試に合格しさえすれば進学可能です。

研究の世界は、臨床とは大きく異なります。臨床は、診断や治療がうまくいっていれば症状や検査値が改善していくため、転帰をもとに計画を変更することができます。いっぽう、研究は原因や病態、未知の治療法など、分かっていない分野を切り開いて解明していく作業です。分からないなりに仮説をたて、仮説が正しいかどうかを検証していく作業を行います。こういったアプローチが好きか嫌いか、得意か苦手か、正確に合っているかどうかがとても重要です。

臨床では「結果が出ない」=「患者の不利益、予後不良」に相当し、それは医療の限界であることもあります。研究で「結果が出ない」とは、「論文発表するに足る成果や結論が出せない」ということであり、仮説の立て方が間違っている、検証アプローチが間違っている、実験結果の再現性がとれない、など実にたくさんの要素を検討しなければなりません。そして結果が出せなければ、研究者としてのキャリアはそこでドロップアウトとなり終了、学位も取得できないということになります。ビジネスのように、シビアな世界なのです。

結果が問われ続ける学問の世界、それに耐えられるか、楽しいと思えるか。時間と研究競合との競争社会に生きていけるか。自問自答しながら大学院生を過ごしてください。

臨床医にくらべ、収入が激減する場合がある

大学院に通っている間、収入をどうするか考えなくてはなりません。

大学院で研究に没頭したければ、いわゆる医師としての業務(外来・入院診療などの臨床面)をすべてなしにする、という選択肢が選べるかもしれません。ただし、それには生活するのに十分な貯えや、他からの収入があることが条件になります。そういった条件は、現実的にはなかなかクリアできないでしょう。

そうなると、何かしらのアルバイトを行いながら大学院に通う、ということになります。ここが大学院生のツラいところ。研究に専念したいのに、生活していくために別の仕事をしなければならないのです。研究実験はまとまった時間を確保しなければならないことが多く、仕事との融通をつけることが非常にストレスになります。

大学院に通う前の収入と同程度になるようにアルバイトを両立させるのは、時間的にも体力的にも大変です。その上、学生ですので大学に学費を支払う必要があります。金銭面のやりくりについても大きな問題が付きまとうのが、大学院生時代です。

医師15年目程度までのキャリアについて、特に重要と思われるポイントを挙げてきました。

いきなり遭遇する問題に自身のみで対応するよりも、いずれ生じると予想できている状態で対応する方が、ずっと楽なはず。ここに記載したことを頭の片隅にでも置いて、いざ自身の問題となった時に対策を取りやすいよう、シミュレーションしてみてはいかがでしょうか。

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